鏡開きという大役の重みと、人生で実際に体験する希少性について

日本の伝統的なお祝いの席をこれ以上ないほど華やかに彩り、会場全体を一気に歓喜の渦へと巻き込む特別なセレモニー、それが「鏡開き」です。結婚披露宴や周年記念パーティー、あるいは地域の盛大な祝賀会やPTAの広域大会など、人生の節目や格式高いハレの日のシーンには欠かせないお馴染みの演出となっており、その席を盛大に盛り上げるために広く行われる代表的な行事の一つとなっています。
しかしながら、私たちは一般の出席者やゲストとして、客席からその華やかな光景を目にする機会は数多くあっても、実際に自分自身が来賓として壇上に立ち、木槌を手にして鏡開きを執り行う側に回る機会というのは、一生のうちにそう何度も訪れるものではありません。それだけに、いざ「来賓として鏡開きをお願いします」と大役を依頼されたときには、嬉しい反面、誰もが少なからず緊張し、作法や振る舞いについて戸惑いを覚えてしまうもの。見るのとやるのとでは大違いだからこそ、事前の細やかな心構えと準備が重要になってくるものです。
東北高校PTA連合会秋田大会への登壇と、着物屋としての私のアイデンティティ
先日、私は秋田県において盛大に開催された「東北高校PTA連合会秋田大会」の懇親会に出席するという、大変光栄な機会をいただきました。私は現在、「山形県高校PTA連合会 会長」という大役を仰せつかっております。そして山形県内でも非常に珍しいことに、この県会長という重責を務めさせていただくのは「2度目」となります(汗・笑)。その立場、そして日頃から日本の伝統文化を伝える「着物屋(呉服店)」を営む経営者としての誇りを胸に、私は会場の大半を占める洗練されたダークスーツの波の中で、ただ一人「着物姿」で格式高い壇上へと登らせていただきました(笑)。
和装での参加は会場の皆様からも非常に大きな反響をいただき、大変嬉しかったのですが、同時に、いざ鏡開きという大きなアクションを伴う役目を目前にしたとき、着物屋であり、かつ県会長という立場だからこそ「絶対に知っておくべき、和装での鏡開きの具体的な注意点とアドバイス」があることを、体験を通してお伝え申し上げます。
アドバイスその1――壇上のすべてを味方にする、徹底した礼節と美しい所作

まず、着物姿で鏡開きに臨む際、皆様に最初にお伝えしたい重要なアドバイスは、「壇上に上がる瞬間から降りる瞬間まで、徹底して礼節を保ち、隙のない美しい所作を意識すること」です。言うまでもなく、これは着物を着ていようが洋装であろうが、フォーマルな祝宴の場における基本中の基本であり、社会のリーダーとしてのマナーそのものです。しかしながら、着物を着ているときはその独特の存在感ゆえに、周囲の出席者からの視線が何倍も集中するため、雑な動きが非常に目立ってしまいます。
壇上へと向かう際には、ただ何となく歩を進めるのではなく、まずは会場を埋め尽くす大勢のお客様陣に対して丁寧に向き直り、続いて共に壇上に並ぶ他の来賓陣の皆様に敬意を払い、そしてステージの酒樽に対して、それぞれのタイミングで背筋をすっと伸ばして深く美しいお辞儀を交わすことが決定的に重要です。この最初のアクションで凛とした気品を周囲に示すことこそが、鏡開きという儀式全体の格調をぐっと引き上げ、お祝いの席にふさわしい素晴らしい空気感を醸成する礎となるのです。
アドバイスその2――予期せぬトラブルを防ぐ、酒樽の中身(液面)の事前目視確認

続く第2のアバイスは、いざ木槌を構える直前に、さりげなく「樽の中身がどれくらい入っているのか、その量と状態を目視で確実に確認しておくこと」です。鏡開きは文字通り、掛け声に合わせて蓋を豪快に割るダイナミックな演出ですが、その準備状況は会場や主催者によって千差万別です。実は、演出のために樽の中に日本酒やお祝いの液体がなみなみと満たされているケースが多々あり、中身の状況を知らないまま威勢よく「よいしょ、よいしょ、よいしょ!」の掛け声とともに全力で木槌を振り下ろしてしまうと、割れた蓋の衝撃で中の液体が勢いよく四方に飛び散ってしまうという、恐ろしいトラブルが潜んでいます。
もしお酒が周囲に激しく飛び散れば、自分自身の顔やせっかくの伝統的な着物を濡らしてしまうだけでなく、隣に並んでいる他の方々の高級なスーツやドレスにまで甚大な被害を被ってしまうリスクがあるのです。ハレの日の主役やゲストに不快な思いをさせず、大切な和装や周囲の衣服を予期せぬ汚損から守るためにも、叩く直前に樽の中の液面を素早くチェックし、適切な力加減を瞬時に見極める冷静な観察眼が絶対に欠かせません。
アドバイスその3――法被着用時の『袖モコモコ』を防ぐ、着物屋としてのリアルな反省

そして最後の第3のアドバイスであり、私自身の最大の反省点でもあるのが、「半纏(はんてん)や法被(はっぴ)を上から羽織る際、着物の長い袖が美しく収まるかどうかを事前に計算しておくこと」です。今回の秋田大会の壇上にて、私も用意されていたおめでたい法被を着用させていただいたのですが、事前の確認を怠り、何も気にせずにそのまま上から羽織ってしまったため、法被の狭い袖の中で着物の大きな袖がモコモコと不格好に膨らんでしまい、腕が非常に動かしづらくなるという事態に陥りました。
これは着物屋を営む身としては非常に恥ずかしく、見た目のスマートさを欠くだけでなく、木槌を振るう動作の妨げにもなるため、大きな反省点となりました。もし着物の上に着物の「羽織(はおり)」を着て登壇していた場合は、法被を重ね着するのではなく、壇上に上がる前の段階で羽織をあらかじめ脱いでおくことこそが、非常にスマートで合理的な解決方法の1つです。法被を着る前に、着物の長い袂(たもと)を綺麗に畳んで前方に収めるか、すっきりと処理しておくことで、木槌を力強く振るう姿も格段に凛々しくなり、記念写真の映り映えも劇的に美しくなるということを、身をもって学んだ貴重な経験となりました。同じように地域や組織のリーダーとして着物でお祝いの席に臨まれる皆様、ぜひこの3つのポイントを意識して、堂々と素晴らしい鏡開きをご披露頂ければ、より素敵な感じになるかと存じます。
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